フィギュアスケート女子シングルの坂本花織が、最後のオリンピックシーズンを本格的にスタートさせた。集大成となる今季のプログラムに込めた思いを本人の言葉をもとにたどる。

写真: 2025 Getty Images
執筆者: Chiaki Nishimura
2025年10月15日 22:29 GMT+81 分
今季限りでの引退を発表しているフィギュアスケートの坂本花織が最後のシーズンに選んだのは、ショートプログラム(SP)「Time To Say Goodbye」と、フリースケーティング(FS)「愛の讃歌」。
オリンピックファンにとって「愛の讃歌」といえば、昨年のパリ2024開会式でセリーヌ・ディオンがエッフェル塔の上で歌い上げた、あの象徴的なシーンを思い出すかもしれない。だが、坂本はその10年前から心に決めていた。「ソチ(オリンピック)のときに憧れの鈴木明子さんがショートで使われていて、絶対自分が引退するシーズンはこの曲を使いたい」との思いのもと、4歳から始めたフィギュアスケートの節目となるこのシーズンのFSで、スケートへの愛をこのプログラムにぶつける。
奇しくも、「愛の讃歌」は今や直近のオリンピックを象徴する1曲となった。坂本はこの運命的な選曲をオリンピックシーズンにどう表現していくのか。
そしてSPでは、「今年はどうしてもブノア先生にお願いしたかった」と世界的振付師のブノア・リショーとタッグを組み、プログラムを仕上げる。
シーズン本格開幕を前に、坂本はプログラムに関する思いを公式の場で語ってきた。その言葉をたどってみたい。
ブノワ・リショーの振り付けで「Time To Say Goodbye」
[ショートプログラム]
- 曲:Time To Say Goodbye(サラ・ブライトマン、アンドレア・ボチェッリ)
- 振付師:ブノワ・リショー
SPで坂本が使用する楽曲は「Time To Say Goodbye(タイム・トゥ・セイ・グッバイ)」。
別れを告げるような曲名だが、キャリアにひと区切りつけようとする25歳の坂本にとって、次のステージに進むための曲だと本人は言う。
「曲名はさよなら、という感じなんですけど、ここで終わりというよりかは、次の自分に向けてみたいな感じで、次に進むためのショートプログラムなので、決して終わりみたいな感じではない」とその意図を説明する。

坂本花織とブノワ・リショー
振付を依頼したのは、国際的に高く評価されるブノワ・リショーだ。
選手たちの感情と深く共鳴するプログラムを作ることで知られるリショーと坂本がタッグを組むのは、前回のオリンピックシーズン(2021/2022)以来4季ぶり。当時はSP、FSをリショーが担当し、坂本は北京2022で銅メダルを獲得した。「今年はどうしてもブノア先生にお願いしたいっていう自分の強い意志があった」と、念願叶ってのプログラムだ。
依頼した理由について、坂本は8月に行われたオリンピック対策合宿の際にこう語っている。
「ブノア先生の振り付けが自分に合っている感じがしたのと、ブノア先生のことが好きな感じがあったので、多分、最後までやらなかったら悔い残るなって思った」
「もう1回、自分らしいスケートをプログラムで見せていきたいっていう部分では、彼の力が必要かなと思いました」
厳しい指導で知られるものの、それでも「好き」と話す坂本は、自身について「ドM」ですねと笑い飛ばす。
「ブノワ先生の振り付けはひと癖あることが多い」とした上で「今回は比較的少なめなんですけど、動きの大きさだったり、独創性が(ある)。曲が滑らかなのに対して、動きもそうなりがちなんですけど、考え方が違うのか、動きも壮大な感じになっているの、そこはさすがだなと感じました」と絶大な信頼を寄せる。
日本初開催となったチャレンジャーシリーズ木下グループ杯の際にも、「直前までブノア先生とビデオ通話して、ブラッシュアップのポイントみたいなの(を確認)をするぐらい細かくいろんなところに注意をした。丁寧にやっていきたいプログラム」とコメント。「いろんな振付師さんを経験して、苦手なところを今まで挑んでいってたんですけど、今年は自分らしい滑りで見せていきたい。ブノア先生もそれを思っていたのか、凝ってはいるけど、自分の伸びのあるスケートができるプログラムが出来上がった。滑っててすごく心地いいし、満足感が得られるプログラムだなって思います」と胸を張った。
「愛の讃歌」で21年間やってきたものを表現
[フリースケーティング]
- 曲:La vie en rose / Hymne à l'amour / Non, je ne regrette rien (パトリシア・カース、エディット・ピアフ)
- 振付師:マリーフランス・デュブレイユ
FSでは「愛の讃歌」を中心に、エディット・ピアフの「ばら色の人生」「水に流して」を合わせたメドレーとなっている。
SP同様、当然ながらFSへの思い入れも強い。ソチ2014の鈴木明子の演技で「この曲!」と決めてから12年目。シーズン初戦となった木下グループ杯では完璧な演技とはならなかったが、「初戦始まる前に振り付けから1回ブラッシュアップして、この大会をが終わってからもう1回本格的にブラッシュアップをする予定。より磨きがかかるかなって思う」と話し、「自分自身、特別な思いもあるので、そこをしっかり表現できるようにするのと、しっかりジャンプがハマるようにできたら」と意気込んだ。
集大成のプログラムで、4歳で始めたフィギュアスケートのすべてをぶつけるつもりだが、その難しさも実感している。
「スケーティングとか表現以外のところは自分らしくできるっちゃできるんですけど、20年間や21年間やってきたものを、プログラムの4分で表現しきるというのが、自分の中でまだちょっと難しいところはあるので、どうやってそれを凝縮したらいいんだろうみたいなのは若干まだあります」
グランプリシリーズ・フランス大会で本格始動した坂本の最後のシーズン。これらのプログラムをどのように発展させ、オリンピックにつなげていくのだろうか。